Vol.19
来年3月、本校の高校2年生は、台湾と九州に分かれて選択制の修学旅行に出かける予定です。
そんなこともあって、以前買ったままになっていた一冊の小説を、この夏、読んでみることにしました。
楊双子さんの『台湾漫遊鉄道のふたり』です。
舞台は1938年、日本統治下の台湾。日本から台湾を訪れた作家・青山千鶴子と、その通訳を務める台湾人の王千鶴。台湾の豊かな食文化を織り交ぜながら、二人の女性の交流を描いた物語です。
読み始めて知ったのですが、青山千鶴子は長崎の出身。台湾と九州という、本校の二つの修学旅行先が、思いがけず一冊の本の中でつながりました。
正直に言えば、読み始めは、少し独特な構成に戸惑い、物語の中に入っていくまでにちょっと時間がかかりました。
知らない地名、知らない食べ物、そして自分が十分には知らなかった台湾の歴史。
ところが、読み進めるうちに、物語のおもしろさに引き込まれていきました。そして、作品の中に次々と登場する台湾の食べ物や、そこに描かれる文化にも興味が広がり、「読む楽しみ」に「知る楽しみ」が重なっていきました。
そして、知れば知るほど気づいたことがあります。
何かを知るということは、自分が知らなかったことに気づくことでもある。
知らなかったものを一つ知ると、その向こうに、さらに知らないものが見えてくる。そして、それをまた知りたくなる。
しかし、この本を読み進める中で考えたことは、台湾の歴史や文化についてだけではありませんでした。
タイトルにある「ふたり」。
千鶴子と千鶴の関係を追いながら、私は次第に、人と人がつながりについて考えるようになりました。
千鶴子は、千鶴を大切に思い、もっと知りたいと願うようになります。けれども、ともに過ごす時間を重ねても、互いの思いや、見えているものが同じとは限りません。
二人の間には、育ってきた場所や文化、言葉だけでなく、それぞれが置かれている社会的な立場にも違いがあります。
友達であるとは、どういうことなのか。
対等な関係とは、どういうことなのか。
相手を思うことと、相手を理解することは、果たして同じなのだろうか。
物語の後半に進むにつれて、そんな問いが少しずつ重くなっていきました。
本校のGCP(グローバル・コンピテンス・プログラム)には、「世界とつながる」というテーマがあります。
「世界とつながる」と聞くと、外国語を話すこと、海外へ行くこと、異なる文化や習慣を知ることなどを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それらも大切なことです。
けれど、この本を読み終えて改めて考えました。
世界とつながるということは、結局、自分とは異なる背景を持つ一人の人と、どう向き合うかということなのではないでしょうか。
相手について知る。
違いを知る。
そして同時に、自分自身がどのような背景を持ち、どのような立場から相手を見ているのかにも気づいていく。
違いを知ったからといって、それだけで相手との距離が縮まるわけではありません。では、その違いを抱えたまま、人と人はどうつながっていくことができるのか。
一冊の本から、知らなかった台湾が少しずつ見えてきました。
そして、そこから、人と人とのつながりや、「世界とつながる」ということについても考えるようになりました。
一冊の本から、知らなかった世界へ。
そして、その世界からまた次の問いへ。
この夏、そんな読書を楽しみました。
校長 荒籾 和成
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